鴨川
12日に京都に帰ってきて以降、1日も働いていない。
いや、働いてはいるのだが土日だけ。
それも、大学一回生の時からやっている警備のバイトで、仕事はもう覚えてしまっている。
仕事もそこまで難しいことはさせられないし、人間関係に悩むような職場でもない。
精神的負担は無に等しく、働いていないようなものなのだ。
毎日、昼過ぎまでダラダラと過ごしては、バイトの通勤ルートを避けて自転車を鴨川まで走らせ、川べりで座り込んでいた。
気が向けば、持ってきた本を読んだり、音楽を聴いたり。
「帰ってからはしばらく働かないで、気の向くまま過ごしてみよう。そうすればやりたいことが見つかるかも。」
そう思って本当に気の向くまま過ごしてきたが、鴨川で座り込むことでは到底メシを食っていけそうにはない。
今日、以前世話になっていたバイト先であり、今も籍だけは置かせていただいている会社に、契約更新に行ってきた。
その会社は四条河原町のデパートの中にある。
作業着でデパートに入るのは少々はばかられたが(色々と便利なので、僕は普段から作業ズボンでウロウロしている。)デパートに入るからといってよそ行きの格好をするのは、なんとなく悔しかったので、「普段着」のまま、ズカズカとデパートに入っていった。
化粧品売り場から押し付けられる甘い香りをやり過ごして、地下に降りる。
店の事務所で帽子をとって「お久しぶりです。」と社員の方に声を掛けた。
約半年ぶりに姿を現したにもかかわらず、以前と変わらぬ態度で接してくれた。
自分は数週間でも顔を合わせないと、その人との距離感を忘れてしまい、ぎこちなくなってしまうので、そんな社員さんの態度が逆に申し訳なかった。
契約更新の書類を書き終える頃、
「明日暇か?」
と声をかけられた。
「はい、暇です。」
「明日入れる?」
「はい。」
「じゃあ、すまんけど、明日頼むわ。」
誰かに声をかけられないと、このままダラダラと貯金を切り崩す生活を続けてしまいそうだったので、すごくありがたかった。
富山に行く前まで働いていた酒屋には「5月の末には帰ってくると思います」と伝えていたので、再三店長から電話がかかってきているが、それには応える気になれなかった。
時給は高いが精神的負担が自分には大きすぎた。
いや、入ってきたバイトが軒並み2週間もしないうちにやめていくような職場だったので、「自分には」は不要かもしれない。
その酒屋は、個人経営の年中無休。
僕が入った直後に、店長と一緒に店を切り盛りする奥さんが体調を崩し長期離脱。
さらには長年勤めてきた主戦力のおじさんが、店長と喧嘩して辞めた。
ストレスは多かったが、使命感と時給の高さから働き続けてきた。
しかし、しばらく離れて、要らぬものを背負っていたのだと気づかされた。
今思えば時給も、精神をすり減らしてまで働き続ける価値があるほどの高さではない。
25日に支払われる手渡しの給料を、どう受け取ろうか。
給料もらえないことよりも、あの店にもう一度顔を出す事の方が嫌だな。
連日、意味もなく鴨川に通うことは当分なくなりそうだ。